2012年12月26日水曜日

『桐島、部活やめるってよ』VS『太陽の坐る場所』VSナポレオン・ダイナマイト

http://riekonaito.blogspot.jp/2012/12/blog-post_24.html

↑ここで、スクールカーストについての新書を紹介しましたが、
その流れで、話題のスクールカースト小説
(というか、スクールカーストオワコンにしようぜ小説)
『桐島、部活やめるってよ』を読みました。



『桐島~』を読んだ率直な感想はこうだ。

*読みやすい(ひねりが少ないので読者層が広い)
*映画の小ネタの入れかたが上手い
*桐島の露出を最小限に抑えたのが新しい。

過去に、主人公の周囲の人たちが主人公について
オムニバスで語る手法は定番になっていたが
(『悪女について』『阿寒に果つ』『死ねばいいのに』『グロテスク』など)
最後に主人公の手記を入れたり、主人公像が浮かび上がる形に
なっているものが多かった。その分、最後まで
露出が少なかった桐島像は「読者の心の中だけの桐島」を
獲得することができるので、読者が「自分の経験」と重ねて読める。
ユングの元型みたいなものなんかな。
スクールカースト上位の男子像っていうのは。
これを読めば分かる:http://riekonaito.blogspot.jp/2012/12/blog-post_5939.html

女の子の中のアニムスも未熟だから
憧れの相手は
わかりやすい運動部系のキャプテンに走るんだ・・・
(また、DQNにも走りがちである。一応、力の変形だから)

んで、結果、女子マネ服に・・・(ああ、またこの話題に回帰
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/12/blog-post_5939.html

女子のアニムスの最終段階は

第一段階:最初は力
 
第二段階:行為(心が清いか)
第三段階:言葉(思想的になってくる)
最終形態:意味(生きている意味そのもの)
 
の中の「意味」だから・・・
 
映画を撮る行為そのものに生きる意味を見出している
アニムス最終形態の
映画部の地味な男子の
素晴らしさに気付く人が少ないんだな。
 
でも、唯一、野球部のスクールカースト上位の男子が
その「ひかり」に気付く・・・というシンプルな話が『桐島~』だ。
 
夢中になっている対象が「バレーボール」でも「映画」でも
そんなの関係ねぇ!なにかの行為に夢中になり
それ自体に生きる意味を見出している者に
貴賤などありはしない!!ということだな。
 
(ちなみに、何かの状態に夢中になって、それそのものが生きている意味、
幸福になる状態についてはスポーツ美学という
ジャンルで言及されているよ。
ただ、このフローとかゾーンとか美的気分と言われるものについては
スポーツだけじゃなくて他の分野でも起こる。
だから、「その美的気分自体に貴賤はない」と気づく
野球部員の悟りの瞬間を描いた作品が『桐島~』である)
 
『桐島~』はこの「気づき」を分かりやすく作品にして、
スクールカーストをオワコンにする役割を担った小説として
歴史に名を残すと思う。
 
・・・・・・・が、しかし。
 
振り返ると、似たテーマで描かれている作品は過去にもあったんだ!
 
とはいえ、過去の作品と何が違うのかをツッこんで考えてみたい。
 
比較対象として適切なのはこの作品だ。
 


*この作品『太陽~』は、1980年生まれの女性が書いている。
(『桐島~』は1989年生まれの男性が書いている)

*『太陽~』はオトナになったクラスメイトが、
スクールカーストをオトナになっても
トラウマとして引き摺る様子を過去回想系で書いている。
*『桐島~』は回想系じゃないから時間軸がシンプルで読みやすい。

*『桐島~』は地味な映画部の男子が、目立たないけど「ひかり」を放つ。
*『太陽~』は女優として成功した女子が、目立ちまくりで「ひかり」を放つ。
しかも、アマテラスの神話まで持ち出してきているので、誰からもわかる「ひかり」。
ってか、「女優として成功」=「ひかり」(そして、その「ひかり」は
過去も現在も不変だ、というテーマ)としてしまうと、
わかりやすすぎるというか、ベタだ。

ちなみにこの女優パターンを歌手に替えると以下の作品となる
http://www.amazon.co.jp/%E5%9B%A3%E5%9C%B0%E3%81%AE%E5%A5%B3%E5%AD%A6%E7%94%9F-%E4%BC%8F%E8%A6%8B-%E6%86%B2%E6%98%8E/dp/4087713393/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1356484018&sr=1-1

*だから、『桐島~』のような「内面でひっそり起こる気づき」を
文章にしたのは、やはり新鮮だと思う。
(しかもスクールカースト上位の者が下位の者の「ひかり」に一人だけ気づいている)

=============================
なぜ、辻村には書けなかったモノが
朝井リョウに書けたか、といえば、それは時代性もあると思う。
辻村さんは80年生まれ、
朝井リョウは89年生まれ、
たかが10年、されど10年なのである。
朝井リョウは80年代の旧世代スクールカースト意識を知りながらも
それ自体が破壊可能な存在であることに気付いた
境界線の89年生まれなんである。
90年代生まれ直前、という立ち位置だからこそ見えたものがあるんだな。

90年代生まれについて2つの資料
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/10/blog-post_29.html
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/10/spoon-201212.html

それに、朝井リョウは男性。
辻村さんは女性なのだ。
『太陽~』において、
女性である辻村さんが女性の「ひかり」を描く時
ベタなヒエラルキー

全国区女優>地方の女子アナ>売れない劇団員>OL

疑似スクールカースト的に書くのは、
80年代の女性の価値観が
そこらへんでガチガチに固まっているからだ。

全国区の女優=成功・・・という価値観は
ベタすぎる。というか、少女漫画的価値観すぎる。
売れない劇団員が、全国区の女優に会いに行って
劇団が載った新聞の切抜きを渡そうとするシーンなど秀逸だが
最後には、そのヒエラルキー自体を破壊したほうが良かったと思う。
なんで、女優が成功で、OLや地方女子アナが
その影にならなきゃいけないのか?
地味に働いて、自立している女性は、どんなにがんばっても
女優の影に隠れなきゃならんのか?

それに比べると、ヒエラルキー上位の男性が
下位とみなされている男性の「好きなことに夢中になれること」の
価値に気付きそれによってヒエラルキー自体を破壊した『桐島』は面白い。

えーと、『太陽~』と『桐島』の間に
西加奈子の『きりこについて』を置いてみるのも面白い。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%8D%E3%82%8A%E3%81%93%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%A5%BF-%E5%8A%A0%E5%A5%88%E5%AD%90/dp/4043944810/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1356485154&sr=1-2

西加奈子は1977年テヘラン生まれ、
カイロ・大阪育ち。

なのである。つまり、ベースに異邦人目線があって
大阪のスクールカーストを見てた人なんだな。
映画『ボラット』がアメリカ人の「何か」を炙り出すことに
成功したhttp://riekonaito.blogspot.jp/2012/09/1002250.html
のは、異邦人目線があったからだ。

『きりこについて』は、猫が語り部(しかも名前ラムセス2世)
になっているが、猫の視点が西加奈子の視点なのだと思う。

猫の視点で、日本のスクールカーストを見て
それを作品にしたので「自身の精神が根底では
巻き込まれてないがゆえの軽快さ」があるよ。

『きりこについて』は初めてのスクールカースト
(小学校高学年でカワイイ子が権力を持ち始める)
についての描写も丁寧だし、DQN系の凋落→復活も
うまいこと描いている。そして、なにより最後に
女性の漫画家の創造性を評価して
その「ひかり」を描けているのが
素晴らしいんだな。

ちなみに、日本のスクールカーストの中で、
「ハーフ」という立ち位置はどうなのか?はこの本がおススメ。
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/09/blog-post_3.html

いったん整理してみよう。

西加奈子:70年代後半生まれだが、異邦人視点あり。女性。
辻村深月:80年生まれ。女性。
朝井リョウ:89年生まれ。男性。意外に岐阜出身。

そうだ、この朝井リョウの「岐阜」ってのにも着目したほうがいい。
小説内にやたら避妊具が出てくるんだが
これ『ファスト風土』ならではなんだな。

田舎→やることない→イケている子はヤルくらいしかない

・・・・というファスト風土の文化なんだな、コレ。

http://riekonaito.blogspot.jp/2012/03/blog-post_30.html

↑この本読めばわかる。
そして、先日の問題のhttp://riekonaito.blogspot.jp/2012/12/blog-post_24.html
であるが・・・

著者は1984年生まれの男性で
秋田→群馬の大学→院で上京
パターンのようだ。
おそらく、旧世代の価値観のまま、院で研究しているので
「自身のスクールカースト巻き込まれトラウマ」が残っている。

たぶん、西加奈子のように
テヘラン的経由で
テヘラン→秋田→群馬→東京
だったら、一歩ヒいて、日本のスクールカーストを研究できると思うのだが・・・
いっそのこと、いったんテヘランに留学してみたらどうだろう・・・。
いや、いっそインドで本物のカースト制度の厳しさを知ってから
改めてスクールカーストと比較してみたらどうだろう?

古市氏が、若いわりに日本の若者を一歩ヒいて
考察しているのは、彼が北欧に留学していた経験が効いていると思う。

注)かくいう自分は、留学経験ありませんので、
全然偉そうなことは言えません。
しかし、なぜかいつも立ち位置が宇宙人。
人間じゃない、という噂がたまに出ます。

あ、忘れていたが『野ブタ~』もスクールカーストものだ。
ただ、小説版はスクールカーストへの敗北で終わり、
ドラマ版は克服を描いていた。
詳しくはこちらへ→http://riekonaito.blogspot.jp/2012/10/blog-post_12.html

野ブタの作者は・・・白岩玄。
1983年生まれ。京都府京都市生まれ。京都府立朱雀高等学校卒業後にイギリスに留学。
大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科卒業。

なるほど~、イギリス留学の経験が効いてると見た。
しかし小説版はスクールカーストに敗北する結果。
その野ブタの敗北を「勝利」に替えて
小説化したのが朝井リョウかなぁ。
===================
えーと、話は変わりますが、
『桐島~』は映画の小ネタの使い方が上手い。

特に『週刊 真木よう子』と
岩井俊二作品の入れ方。

『週刊 真木よう子』は面白い企画だったなぁ。
(永作博美の魔物ぶりに真木よう子が喰われているのが印象に残っているが)

真木よう子の根底にあるルサンチマンが出ているのは西川監督の『ゆれる』だし
あの地方のガソスタの店員の役は素晴らしかった。
ルサンチマンを昇華し・・・
花開いたあとの彼女の活躍ぶりは『週刊 真木よう子』で観ることができる。



あと、中高生にウケる
『リリィ・シュシュ』『花とアリス』はよくわかる。
どちらも、中高生が共感できるのに
大人が観ても、もちろん価値があり、痛いけれども美しく、
そして「自分も映画を撮ってみたくなる」作品なんだな。

『リリィ・シュシュのすべて』
ただし、この中二的感覚を
芸術作品にできるのは、
監督がオトナだからだ。
ホントの中二だと、このような描き方はできない。
 
しかし、ここまで映画に詳しい朝井リョウが『バス男』を知らないわけが
ないような気がする。
 
2004年のアメリカ映画『バス男』である。
あの映画はスクールカースト下位のナポレオン・ダイナマイトが
親友のメキシコ人のために踊る。
その行為が「ひかり」を放って、結果、
スクールカーストが破壊される話だ。
 
ただ、『バス男』になくて『桐島~』にあるのは
「ジョック側の内面で起こる自然な気づき」だ。
 
バス男では、周りのパンピーがナポレオン・ダイナマイトの
魅力に気づき、拍手喝采→ジョック側が折れてしぶしぶ認める
・・・という結論だったが、『桐島~』の場合は
下位の者の「ひかり」に自然に気づく→大切な何かを知る
という抑制の効いた表現が東洋的な「抑制の美」を感じさせた。
 
『桐島~』の結論自体(スクールカースト、オワコン)は
『バス男』で既に出ていたと言えば出ていた。
ただ、舞台をアメリカのハイスクールではなく
日本の高校に置き換え、そこに抑制の美学を加えて
文学作品にしたことでオリジナリティがあるし、作品としても素晴らしい。
(ちなみに『桐島~』の映画はまだ観ていないのでノーコメント・DVDは予約した)
 
ちなみに、さっきから『バス男』『バス男』と連呼しているが
肝心な彼はここに↓
 
============================================
 
ツイッター経由で、はやひでさんから
コメントいただきました。
 

はやひでさん:この勢いでアメリカンスクールカーストの上位層から成長し損なった映画『ヤング≒アダルト』評を聞いてみたい 
 
私:その映画も観てみたいですねぇ
 
はやひでさん:にしてもスクールカーストブームですね。昨今の不安商売ブームも、出自の部分までいきついたかという感じです。 とはいえ映画版『桐島』にガッツリやられてるんですどww 
 
私:あ、一種の不安産業ってのは鋭い指摘ですね。
誰しもが、学校という場で傷ついている。
上位とされていた者も、下位とされていた者も。
「お腹に脂肪が付きやすいアナタに」と言われると「あ、自分のことだ」と
思ってトクホの飲料を買うんだけど、実は中年になると
皆、お腹に脂肪が付きやすいのよね。
それと同じで、
「学校という場で傷ついたアナタにスクールカーストものアリマス」と言われると
「あ、自分のことだ」と思って読んでしまう。
多くの人が学校という場に何らかのトラウマがあるような気がする。
いじめられ経験、無視された経験など、アンケートとると
ほとんどの人がYESと答えるだろう。
だからスクールカーストものは売れる。


はやひでさん: なんかなんか遡って『スクールカーストに縛られていた自分』を懐かしむと同時に、残滓を自覚して、何かに走らせるんでしょうねぇ。走る方法は人それぞれですけど。                 
 
私:残滓という表現は的確だと思います。
残滓でスクールカーストを研究対象にして
新書を書くパターンもあるでしょうし・・・。
小説にして昇華したり、映画にしたりするパターンもありますね。
また、高校までうまく行かなくても、
大学デビューで克服するパターンもあるかも・・・。
(ただし大学デビューが恥ずかしいという意識は後々まで引き摺るのだ)

=======================================================

萩野友紀さんからもコメントいただきました☆

萩野さん:DQN,運動部がモテるのは、女の子が未熟だからというよりも、
付き合ってる男で評価が決まるソシャゲに強制参加させられるからなのでは?と思います。
就職するまでは職業や年収といった強力なパラメータが封印されているので、
パワータイプが人気みたいな。
桐島を「スクールカーストを終わらせる可能性を提示する小説」ではなく、

「俺のスクールカースト論を語る口実に最適な小説」として
読んでいる人が多いような気がしていて、その辺にモヤモヤを感じます。
もしかすると映画版の内容のせいなのかもしれませんが。(映画は観てない)


私:なるほど~!!
DQNや運動部と付き合うと、女の子の世界のカーストが上がる制度もありますね。
(そこらへん、女子校出身のこともあり、よくわかりませんでした)
ご教示ありがとうございます!


あと、学園モノのワールドシミュレーションゲームって
スクールカースト下位の「仮想でカーストやりなおしゲー」ですよね。
 
あと、『桐島~』が「カーストを語らせるツール化」しているのも
なるほど納得です。
 
 
がコミュニケーションツールと化しているように、
『桐島』は「スクールカースト」について語るための
ツールなんだなぁ。
だから、桐島の存在自体にモザイクかけてあるのだ。
 
そして、
私もこうして語っているのであった・・・。

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