2013年4月13日土曜日

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んで

えー、じっくり読みこんだわけじゃないので、
まだなんとも言えないところをあえて
書きますが・・・

村上春樹の新刊は奇妙なものでした。

どういう意味で奇妙かと言えば、
「奇妙でないところが村上春樹らしくない」
という意味で奇妙でした。
まともすぎる。

文体や
具体的な音楽や大学名を出して
シェアワールド型にする手法は過去と同じ。

むしろ、文体とか芸風は
セルフパロディなんじゃなないかと
思わせるほどの村上春樹・・・というか
普通の文章を打ち込むと
「村上春樹風の文書」に変換される機械を
レオナルド博士が発明して、
それで書いたんじゃないかと思われるくらい。

登場キャラとしては・・・

無自覚モテ男
好感のもてるハンサムボーイ
(リア充願望の結晶のような存在)

村上春樹の過去の短編「今は亡き女王のための」の
女の子のイメージに近い女の子
(劇場版ツインピークスのローラのイメージ)
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/09/blog-post_3173.html

・・・が主軸だと思う。

ただ、本当に奇妙なことに、
オカルト要素が出てくることには出てくるんだけど
(緑川→灰田への不思議な話、死のトークンや、
オーラが見える話について)
いつもの「オカルトの世界」へ行って何かに会って戻る・・・
っていうのがグンと縮小されているような。

ただ、緑川の才能と「死のトークン」の関連性は
けっこうおもしろいし、これを短編にして出したら
「やっぱり村上春樹面白い」という風になったと思う。

そこらへんの不思議要素のほかに
異世界との接触があるのが「性夢」の場面。

「ホテルのありえない階」や
「ハードボイルとワンダーランド」でもないし
「井戸」とか「森の中の小屋」とかでもない。
「空気さなぎ」やパラレルワールドも出てこない。

そして、以前の村上春樹の小説なら、小ネタとして
出ていた「性的な夢」がわりとメインになっている・・・。

あえていうなら、「名古屋」が異世界になっているかな。
たぶん、「いまの日本のふるさと」のイメージだと思う。
地方都市、地方都市での友達グループ、そこらへんが
「現在の大学生のふるさと」のイメージなんだな。
ふるさとファンタジーが地方都市名古屋っていうのも
リアルでいいと思う。

田舎から地方都市に出てきた両親、そこから生まれた子が
大学生になっている。いまの20代~30代はそんな世代だし、
だからいまの若者に向けて物語を書くとしたら、まぁ、
このイメージは、正解だと思う。

そして「地方都市=ふるさと幻想」も
仲間の女性のルサンチマンのとばっちりで破壊され、
東京も自分の場所じゃない、
どこにも行けない・・・という閉塞感は出てた。
現代の若者の気持ちを汲んで書いたんだとは思う。

ただ、いまの若者層に
無自覚モテ男
好感のもてるハンサムボーイ
(リア充願望の結晶のような存在)
・・・ってのはあんまりいないかと・・・。
リア充層はだんだんハイブリッドになってて
わりとオタクと兼ねている。
カッコつけてないオレがカッコイイっていう自意識もない。
何の障害もなく自然に彼女できてましたパターンも
誰も共感できない。

普通の「モテ男」なんてどこにもいない。
現在、いるとしたら冬のソナタの彼方にしかいない。

具体的にシェアワールド型にしたいのなら
クラシック音楽じゃなくて「オンラインゲーム」を出さないと!
オンラインゲームで、「不思議な女性」と出会うって
設定なら、まだなんとなくありえる。

今回のように旧世代の若者の生態を未だ
ずるずる出すのはわからん・・・。
いまの若者はバーには行かない。
モンハンで狩りしている。

村上春樹先生は、この小説を日本で書いたのだろうか?
もし、どこか海外で執筆されたとしたら納得がいく。

過去の日本の若者像が普遍っていうのを念頭において
データで「若者像」を組み立て(「小人論」みたいなのも出てくるよ)
いまの日本の若者が読める小説を書いたのかな。

でも、村上春樹の小説を読むのは
たぶん、いまの大学生じゃない。
少なくともこの本に1700円出すのは30代以降だと思う。

30代~の世代が
「村上春樹先生は、もしかしたら、新刊でウルトラCをやってくれるかも」
と期待して買うんだなぁ・・・。

ってか、少なくとも自分はそうだったW
しかも、その期待を煽るタイトルだった。

私は、「もしかしたら、村上春樹は先の先を読んでいて
過去とは全然違う世界観、
違う文体で勝負するかも」と期待していた。

それこそ、本当に作中に「松崎しげる」が出てきて
村上ワールドの世界観をぶち壊し、
「自分の芸風を破ろうとし、ノーベル賞獲得しそうでしない
苦しむ作家自身の姿を
さらにメタ小説にしてしまう・・・」という
笙野先生みたいな作品を期待していたW

いや、自分の妄想だけど、もし、村上春樹が新しい本を書き、
それが面白いものであるならば、
過去の自分の作品を嗤うような作品にして、
ホントに松崎しげるを作品に出しちゃったりしてブチ壊し、
最後にやれやれ、という文言で
締めるしかないのでは?と思っていた。
あるいは、これまでの「不思議ちゃん」を濃縮した
「不思議ワールド総決算な感じ」でも
かえって面白いのでは?と思っていた。

でも、過去の村上小説の典型のような主人公を出してきて・・・
これは「わざと」なのかなぁ。

その主人公が最後に
「どこにも行けない」という
「八方ふさがりであることを示した意味」だったら、
 受け入れたいと思う。

村上春樹の小説は、初出のとき、文学の世界に叩かれ、
男性ファッション誌に評価された。
日本の文学の世界は後から評価した。
そして、村上春樹祭りが起こった。
村上春樹祭りは延々と続くと思ったし、
神秘性を出していくマーケティングも成功していた。

でも、「時の流れに合わせてものすごく変化」することが「現状維持」である
文化の世界で、「過去を壊し切れていない」・・・
しかもそれが故意的なものなのか、わざとなのかもわからない・・・
まさに灰色のものを長編で出した意味が、自分には汲めない。

汲めないのは、自分が読みこんでいないだけかもしれない・・・
と謙虚な気持ちもあるけど、
もう一度読む気になれるかどうかもわからない。

ただ、ここで「コレジャナイ感」http://riekonaito.blogspot.jp/2013/03/590.html
ってのが出てきたんだけど、
たしかに「コレジャナイ感」は、ある。
上記リンクのインタビュー中に
ある「ソフトランディング」を
表現するんだとしたら、まぁ成功しているかも・・・。

でも、いまの日本にそんな
「やわらか戦車的なもの」が効くんだろうか。
(以下の動画はスマホで
表示されないことがありますので
その場合はPCで)
そして、村上春樹先生はいま、日本に住んでいるのかな?
リアル日本に住んでいたら、この作品は出さない気がする。

っていうか、リアルな日本の空気を吸って
リアルな若者と接していたら、この作品は出せないと思う。
いまの若者はもっとタフで柔軟で、地に足着いていて、賢い。

地元のグループにハバにされたら、それをちゃんと
最後まで確認し、納得できるまですぐに行動する。
SNSもあるから情報もシェアできるし、
精神的に不安定になっている女性の言っていることで
仲間から見捨てられたりしない。
そしてそれをトラウマにして痩せるなんてことにもならない。

だから、リアル若者がこの本を読んだら
何言っているのだかわからないと思う。
容易にセックスする主人公も、かつてのanan的な世界から抜けてない。

たしかに、過去の村上春樹の作品に宿っていた「何か」は
ある程度ホントに神秘性のあるものだった・・・と思うし、そう思いたい。

しかし、その神秘性は、ネイティブアメリカンの思想を借りていたり
http://riekonaito.blogspot.jp/2013/03/blog-post_24.html

http://riekonaito.blogspot.jp/2013/03/blog-post_22.html

http://riekonaito.blogspot.jp/2013/03/blog-post_23.html
心理学とかパラレルワールドの思想を借りていたように思う。
リンチ監督の映画とも似てた。
http://riekonaito.blogspot.jp/2012/09/blog-post_3173.html
それでも、何か「宿っている」んじゃないか?
信じている自分がいた。

たぶん、何か宿っていたとしたら、
春樹先生が若い頃に経営していた飲食店での人間観察の結果だ。
彼はそこでリアルな若者の表の顔、裏の顔を「店の人」として
見続けた。観察していた。だから文章に魂が宿った。

過去の村上春樹作品に魂が宿っていたのは
「実在の若者の魂の混ぜ合わせ」が
そこに混入していたからだと思う。

ただ、もう春樹先生が観察していた若者たちは、
年齢を重ねてどこかに行った。
幻の若者に魂を宿らせようとしても蘇らない。

 いつも自分の神秘性を保ち、安全圏にいて
信者である読者に本を授ける。
そんなスタイルはたぶん今回で終わる気がする。

神秘的なマーケティングが成功している物語の解説をする解説書・・・
そこにも権威的なものが宿ったが、もう解説書にも
権威は出ないと思う。

村上春樹は、「気さくなおっちゃん」として
売り直し、若者と話し、なんのために誰のために書くのか
はっきり表明し、謎多きマーケティングやめるべき時期だと思う。

過去の村上春樹ファン層をずっと牽引してくれる存在であり続けるなら
「腰が抜けるほど変わる」ことをしないと、現状維持は無理だと思う。

それを考えると、「腰が抜けるほどキャラ変えした野ばらさんの凄さ」が
見えてきたりする。http://riekonaito.blogspot.jp/2013/03/blog-post_27.html

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